撮影物語 その1

 最近記憶力が低下しているので古い話を覚えているうちに書いておこうと思う。
 私は演出をやる前は撮影だった。その頃のエピソード。
 CGになる前のアニメの撮影では腕時計をするのは御法度だった。ライトの光を反射しハレーションの原因になるからだ。
 ある日のこと、大先輩が腕時計をしたまま撮影を続けているのを助手がみつけた。
「Kさん、時計」、と助手が注意を促すと、その先輩はニコニコしながら、
「いいだろう、これ。高かったんだぜ」

撮影物語 その2

 新人時代には色々な失敗をやった。
 撮影済みのフィルムの入ったマガジンを暗室に持ち込み、現像所に持ち込むラボ缶という平たい缶にフィルムを詰め直す作業を初めてやった時のこと。
 練習は何度もやっていた。
 練習用フィルムという撮影には使わないフィルムを使い、明るい部屋で何度も練習し、それが出来るようになると目をつぶってその作業をやってみる。それが完璧に出来て初めて本番である。
「そろそろやってみる?」と先輩に言われた私は、威勢良く、「はい」と返事をしてマガジンを手に取った。入社してやっと技術屋らしい作業をさせてもらう喜びと緊張で手が震えたのを覚えている。
 私はマガジンを暗室に持ち込みドアに鍵をかけた。作業途中で誰かに開けられてしまったらフィルムが感光してアウトだからである。
 撮影済みのフィルムを入れる黒い袋とラボ缶を用意する。
 何度もドアの鍵がかかっているのを確かめて、フックからハサミを取り、マガジンから出ているフィルムを切断する。
 ここで暗室の明かりを消す。
 真っ暗な中でマガジンのふたを開ける。
 ここまでは完璧だった。
 マガジンからフィルムを取り出そうとした時に、右手に持ったハサミが邪魔なことに気がついた。
 ハサミをフックにかけようと手を伸ばしたら、運の悪いことにすぐそばにある明かりのスイッチを押してしまった。
 本来あってはならない明るい光景に私は慌てた。
「うわっ!」
 心の中で絶叫し、私は飛び込むように目の前のマガジンを上体で覆った。戦争映画で塹壕に転がり落ちてきた手榴弾の上に腹這いになる歩兵のような状態である。
 すぐに明かりを消したが、その間二秒ぐらいあっただろうか。
 フィルムが感光してしまったのは明らかだった。
 私は迷った。このままばっくれて現像所にフィルムを送るべきか、ちゃんと先輩にわけを話して撮り直してもらうべきか。
 私の脳裏に半日かけて撮影したカットが走馬燈のように浮かんでは消えた。
 あー、あんなに苦労したのに。先輩にしかられるー。
 撮影所は結構体育会系なのである。
 二十分以上暗闇の中でさんざん悩んだ末に私は先輩の所へ行き理由を話した。現像所から感光したフィルムがあがってきたら、もっと大ごとになると思ったからだ。
 先輩はあきれた顔をしたが、しかりはしなかった。

 それから二年後、私に後輩が出来た。
 その後輩が仕事になれてきた頃、
「そろそろやってみるか?」と撮影の終わったマガジンを渡した。
 彼は緊張気味に暗室に入って行き、なかなか帰ってこなかった。
 戻ってきたのは二十分もたった頃だろうか。
「あのう……」
 言いよどむ彼の顔色は幽霊のように青い。
 私はできるだけ落ち着きはらって言った。
「お前、明りをつけたままマガジンのふたを開けただろう」
 彼は驚愕して私を見た。
「えっ!? どうしてわかったんですか?」

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